新しいカルチャー(文化)の多くはアメリカ西海岸、ウエストコーストから始まる・・・こう語った文化研究学者がいました。スケートボード、マウンテンバイクやビーチバレーといった遊び心たっぷりのスポーツ、映画産業やポップカルチャー、数々のアヴァンギャルド・バンドを生み出すことになるミュージック・シーン、スタインベックはじめ多くの小説家が誕生した土地・・・カリフォルニアの太陽と北部ウエストコーストのクールな海風が織り成すこの場所には独特の文化が築かれてきました。
トラビス・インダストリーズがあるシアトル/ムキルテオにはマイクロソフト社、ボーイング社があります。アマゾンもここでスタート。スターバックスはこの地に1号店を開きました。
ウエストコーストは文化人が多く、環境に対する意識がすこぶる高い地域として有名です。一部のエリアでは自治体がアメリカ環境保護庁の定める数値よりもっと厳しい独自の排煙基準を設け環境を守っています。この特別なエリアで通用する薪ストーブは、2011年に排煙量0.45g/時間という衝撃の数値で登場を飾ったトラビス・インダストリーズ社のケープコッドしかありません。ほどなくケープコッドはウエストコーストだけでなくアメリカ中で売れ始めます。
厳しい顧客の目にさらされ、トラビス・インダストリーズは常に高機能、高効率、少排煙ストーブへの挑戦を怠らず、邁進してきました。そして手に入れた最先端技術と古き佳きアメリカのデザインテイストの融合が、今まさにハース(暖炉、薪ストーブ、暖房器具)業界の指標になっています。遊び心と本物の実力・・・アメリカ人にとってメード・イン・アメリカのトラビス・インダストリーズの商品を楽しむ事は、アメリカ人でさえ忘れかけていたアメリカの誇りを取り戻すことに他なりません。
日本にやってきたアメリカ・スト―ブ業界最後の大物、それがトラビス・インダスリーズです。
トラビス・インダストリーズは200以上あるアメリカ・ストーブ業界の中でもその規模は5本の指に入るメーカーであり、自社で資金を調達するプライベートカンパニーとしては最大規模の販売力を誇ります。高品質な商品を市場に送り込むブランドとして知られ、アメリカ、カナダの北米はもとより、オーストラリアにも輸出しており、その販売店は1200を越えます。
ワシントン州シアトルから30分ほどのムキルテオの11エーカー(約44500平方メートル)の土地にヘッドクォーター(本部)、ショールーム、工場を構えており、250名以上の従業員が誇りを持って働いています。実に24名からなるR&D(研究開発)チームはこの会社を特別な存在に高めています。
創設以来、数々の賞を受賞しますが、特に2011年発表の薪ストーブ・ケープコッドはVesta Award(その年の最高のストーブ)、Best New Stove Award(技術的に最も優れたストーブ)Green Award(もっとも環境に配慮されたストーブ)の3冠を達成し、注目を浴びました。
カート・ルーメンズが作った最初のストーブ
その歴史はアメリカらしい逸話からスタートしました。1977年、売れないロック・ミュージシャンKurt Rumens は、なんとかサイドビジネスで生活の糧を得ようと、薪ストーブを考案し仲間に売り始めます。ほどなく、その仲間(顧客?)より、アイディアがかえってきます。それらをもとに、改良版のスケッチを描き始めました。この時点ですでに、アーティストであった彼は曲調(デザイン)と詩(機能)の両立が重要であることを知っていました。
1979年会社を設立、Lopiブランドを立ち上げ本格的にストーブの製造をスタートします。翌1980年には、今や全ての薪ストーブで当たり前となっている、クリヤ―セラミックガラスの採用、暖められた空気がガラス上部から流れ常に表面をクリーンな状態に保持、炎を楽しめるエアーウォッシュシステムを開発、最初の商品を発表しました。
1984年にはEPA(アメリカ環境保護庁)認証の最初の非触媒式ストーブを発表、その技術力をアメリカ中に知らしめたのです。今ではアメリカのクラシカルなデザインと高次元な技術力の融合により卓越したパフォーマンスを誇るブランドとして確固たる地位を築いています。
一方1985年スタートした Daniel J.Melcon率いるAvalon社は次々に新しい技術を取り入れたクリーンバーンストーブを世に送り出していました。薪ストーブのみならず、ガス、ペレットストーブの開発にも注力し、そのデザインの美しさには定評がありました。
1988年 Travis Garskeがこの2つの会社を購入しTravis Industries Incがスタートします。Rumens率いるこの新しい会社はそれぞれ2つのブランドの特徴を活かし、同時に両社が持っていた技術力を相互に取り入れ、常に革新的なデザイン、アイディアを披露し業界を驚かせています。
2000年 ガスストーブのバ―ナ―システムが人気雑誌Popular Science誌のNew Product Award (ニュープロダクト賞)を受賞。
2002年 Bed&Breakfast Portrait style(宿泊施設に似合う暖炉に与えられる賞)受賞。
2007年、暖炉Xtremeがそのデザイン、革新性、技術を評価されアメリカ・ストーブ業界最大の栄誉であるBest-In-ShowVesta Award(ベスタ・最高賞)を受賞。
同時に屋外ガス暖炉Tempest Torchも同賞を受賞します。
Tempest Torchはそれまでのガス暖炉の常識を打ち破り、ダンシングファイヤ、という炎の姿までアーティスティックな演出を施した商品を披露し業界に衝撃を与えます。
薪ストーブではArbor が やはりVesta Awardを受賞しました。
そして2011年薪ストーブにおいて驚異のEPA認証・排煙0.45g/時間を実現したケープコッドが発表され、この年のVesta Award 主要部門3冠を成し遂げます。
ロック・ミュージシャンの、生活のためにスタートした小さなビジネスが30年の月日を経て、デザインと革新的技術の融合が評価を勝ち取り、今やアメリカ・ストーブ業界の一端を担う存在にまでなったのです。
カート・ルーメンズ社長
ムキルテオの工場はもともとボーイング社の工場でした。そしてそこにクライスラー社など産業界大手工場の機械を購入し、造られました。溶接マシーンからレザーカッティングマシーン、空気清浄システムに至るまで、洗練された大型機械が整然と並ぶ様は圧巻です。
トラビス・インダストリーズ社はホームページ上で常時「工場ツアー」の希望者を募り、定期的にツアーを実施しています。
工場のフロアーは常にごみ一つない「クリーン」な状態が保たれ、工員が最短距離で仕事ができるよう考えられたラインは、一切の無駄がなく配置されています。
材料は勿論、巨大な空気清浄システムにより空気でさえ工場外に排出するのではなく100%近くリサイクルしようとする「グリーン(環境に優しい)」な姿勢は対外から称賛されています。
これは一つにはアメリカの中でもカリフォルニア、ワシントンといったウエストコーストの州が環境に対し特に意識の高い地域であるからです。
そして緑豊かな敷地にある恵まれた労働環境の中で、従業員は誇りと意欲を持って、仕事にあたっています。1988年と2008年の、従業員が横に並んだポスター「当時」と「現在」のスタッフを見たある工場ツアー参加者は、あまりにも多くの人たちが今もなお働いている事を知り、驚いたということです。
「多くの人々がこの会社で、長く、誇り持って、モチベーションを維持して仕事してくれることに誇りを感じます」トラビス・インダストリーズの社長は言います。
「わたしたちはこの11エーカーの土地をHomeと呼んでいます」